第6章 陸ノ型. 理解する事 ~時透無一郎・悲鳴嶼行冥の場合~
「ねえ、一つだけ聞かせて。」
刹那が悲鳴嶼の言葉を飲み込むよりも早く、時透が刹那に向かって真っ直ぐな目を向けた。
返事を待たずに時透はそのまま続ける。
「何でさっき僕を庇ったの。僕と君はそこまで親しい訳じゃないでしょ?あんな隊士の言葉、無視してれば良かったじゃないか。」
時透の言葉に少し考える素振りを見せてから、刹那は答えた。
『私と、似ていたからでしょうか...』
「僕と君が?」
予想外の言葉に怪訝な顔をする時透を見つめながら、刹那は少しだけ眉を下げる。
時透に対する隊士の言葉を放っておけなかったのは時透と幼い頃の自分を重ねてしまっているからだという事を、刹那は分かっていた。
自分の苦悩や努力を理解されない事。
言われも無い事で自分の価値が下げられる事の不条理さ。
それがどれだけ重いものか知る刹那だからこそ、我慢ならなかったのだ。
胡蝶や甘露寺。
煉獄や不死川、伊黒。
何よりこの鬼殺隊というものに出会い関わっていなければ、刹那は今も尚その苦しみを抱えたままだっただろう。
しかし今は、理解してくれる人がいるから。
自分の本質を知ってくれている人がいるから立っていることが出来る。
その心地良さを、温かさを時透にも与えたい。
刹那が隊士に立ち向かった理由は、それだけだった。
只々この強くも儚い少年に、寄り添いたい。
そう心から思った結果だった。
『時透様。理解されない事は苦しいでしょう。周りは努力や苦悩など何も見ず、ただ結果だけを見て貴方の価値を決める。それがどれだけ愚かな事か。私は気がかりなのです。物を覚えていられないという貴方の日々、どれだけ恐ろしく孤独な事でしょう。』
そっと時透の頭を撫でる刹那の手を、時透がはらうことはない。
受け入れていると言うより、今しがた言われた言葉を理解しようと思考を回すのに精一杯という様子だ。