第6章 陸ノ型. 理解する事 ~時透無一郎・悲鳴嶼行冥の場合~
『貴方は凄い。当たり前のように努力する貴方を理解させてくださいまし。私に、貴方の心を見せてくださいませ。広く豊かで真っ直ぐな、貴方の心を。無一郎の無はきっと...無限の無なのでしょうから。』
瞬間、時透の動きが止まる。
凍っていた心がじわりと少しだけ溶かされたような、気持ち。
陽だまりのような記憶が脳裏に蘇る。
「前にも、その言葉を誰かが言ってくれたような気がするんだ。無一郎の無は無限の無だって。どうしても思い出せないけれど...きっと僕の、大切な人....」
ぼろりと一粒零れた涙は吸い込まれるように地面に溶けた。
長い間時透という人間を本当に理解しようとしてくれた人間は、片手で数えても余る位だろう。
まさかその中に、出会って幾日も経たない人間が入るとは。
現状に時透自身も驚いていたし、何より目の前の刹那があまりにも優しい顔をするから気を張るのも馬鹿らしくなって少しだけ微笑みながらため息をついた。
『撫でられるのはお嫌でしたか?』
まあ、刹那は別の意味にとってしまったようだが。
「いいよ別に、好きに撫でれば?君に撫でられるのは嫌じゃないし。それと無一郎で良いよ、僕も刹那って呼ぶから。その代わり....」
━━━━━━━━━━━僕の理解者になるなら覚悟してよね。
そう言う時透の表情はどこか晴れやかで満足げだった。
(時透の疑念を払ったか、とんでもない子だな。いや、いい兆しと言った方が良いのか....)
今までになく楽しげな空気を出す時透を感じ悲鳴嶼は驚くが、煉獄の手紙に書いてあった事を思い返せば時透が心を許すのも無理は無いと思ってしまう。
「慈愛に満ち、思慮深く、菩薩のような少女。買い被りすぎだと思っていたが、あながち間違っていないな。」
お世辞ではなくそう思う。
そんな悲鳴嶼の心中を知ってか知らずか
夕焼けに染まり始めた空は、お互いを認め合った3人を祝福するように輝いていた。