第6章 陸ノ型. 理解する事 ~時透無一郎・悲鳴嶼行冥の場合~
「私が今日ここに来なかったのは、君の両親に話をつける為だ。酷く嘆いておられた。明日からはご自身の手で君を指導するそうだ。」
「は?どういう事だよ。」
「分からないか?明日から来なくていいと言っているのだ。さあ、早く帰りなさい。私達は、熱意の無い者に宛もなく教える程、暇ではない。」
それきり悲鳴嶼が隊士を見ることは無かった。
未だ聞こえる隊士の喚き声を背中に刹那と悲鳴嶼は外に出る。
『あ、あの、悲鳴嶼様。あれでよかったのですか?』
部屋から出てすぐ刹那はそんな事を聞く。
何が問題なのだと言わんばかりに悲鳴嶼に見つめられ、更に困惑する。
あんなのでも、両親の鬼殺隊としての地位は上だ。
だからお館様方も断れずに柱直々の稽古というのを了承したのでは、
ならば自分はとんでもない事をしてしまったのではと刹那は思っていたから、余りにもあっけらかんとことを終わらせた悲鳴嶼が分からなかった。
「これはお館様の意思でもあるんだ。あの隊士には手を焼いていたからな、何か機会を作って鬼殺から遠ざけようと思っていたんだが....」
君のお陰で手間が省けた。
そう言われてしまえば、刹那はもう何も言えない。
君のお陰であれだけプライドをへし折れた。
当分は戻ってこないだろうとまで付け加える悲鳴嶼に、
刹那は、
『大した事はしておりません。』
そう返すのがやっとだった。
「それに、君の言葉で時透も少しはすっきりしただろうしな。そうだろう?」
悲鳴嶼の言葉に刹那が顔をあげればそこには、廊下の柱に寄りかかるようにして立つ時透の姿が見える。
「まあ、少しだけね。」
ぶっきらぼうに言う時透に刹那は微笑んだ。
時透の少しだけ見える耳が鬼灯のように赤かったものだから、初めて伊黒と心通わせた任務を思い出してしまう。
(小芭内のようだと言ったら、彼は怒ってしまうのでしょうね。)
そんな事を考えながら、さっさと歩き出してしまった時透と悲鳴を追いかけるように歩き始めた。