第6章 陸ノ型. 理解する事 ~時透無一郎・悲鳴嶼行冥の場合~
地べたを這いずる虫のように隊士は悲鳴嶼に縋り付く。
「岩柱!助けてくれ!あの女が俺に無体を!礼ならいくらでもする!今すぐあの女をどうにかしてくれ!!」
最早自分の立場が悲鳴嶼よりも下だということも忘れ、一方的に捲し立てる隊士に向かって悲鳴嶼大きなため息をつく。
そのまま裾を掴む隊士の手を解き刹那の方へと歩き出した。
自分へと近づく悲鳴嶼に刹那は深深と頭を下げる。
『岩柱様、お待ちしておりました。そして貴方の屋敷で出過ぎた真似をした事、お許しくださいまし。』
「顔を上げなさい。君は何も間違った事をした訳では無いだろう。哀れなのはあちらの子供だ。」
刹那の謝罪に対し、悲鳴嶼は静かに言い放った。
哀れな子供と言うのは言わずもがな、あの隊士のことだろう。
「さあ、立ちなさい。君の話は奥で聞こう。」
「ま、待てよ!なんでそいつがお咎め無しなんだ!!」
そのまま刹那を連れ、外へ出ようとする悲鳴嶼に隊士が噛み付く。
これ程までに恥を晒して生きる者も多くないだろう。
ここまで来てまだ自分の方が優位だと信じて疑わない隊士に、流石の刹那も拍手を送りたくなる。
そんな隊士に最後のトドメを刺したのは悲鳴嶼だった。
重々しいため息が部屋に響き、隊士は肩を震わせる。
「68日だ。君がここに来てから私や時透が稽古をつけた日数は。その間君は一日でも、紳士に稽古を受けた日があったか?自ら鍛錬した日はあったか?」
元々低い悲鳴嶼の声は更に低く、訴えるように隊士へと向けられる。
「お、俺は強いんだ...凡人のように鍛錬しなくても、俺は、特別なんだから!!」
尚も喚く隊士に悲鳴嶼は冷めた視線を向けた。
見限った。
あの目はそう語っているとこの場にいる誰もが分かる。
それくらい冷たい視線だ。