第1章 壱ノ型. 出会う
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「あ...」
雲の隙間から僅かに顔を見せた月明かりに照らされ、その姿がはっきりとわかる。
少女だ。
消滅しかけた鬼の首を抱え、真っ直ぐこちらに向かってくる少女。
艶やかな黒髪は風になびき、長いまつ毛に縁取られた瞳と整えられた眉毛は美麗としか言いようがない。
紅く濡れた唇は少し開いて悩ましげだ。
これは世にいう美人というものなのだろう。
俺が目を奪われている間にも少女は真っ直ぐ俺と隊員の元へ歩いてくる。
隊員は余程恐ろしい物を見たのか、ガタガタと震え
「ば、化け物...来るな、っ、殺さないでくれ!」
終始この調子だ。
『ああ、まだいらしたのですか。早くお逃げと言ったでしょうに。』
隊員の言葉に眉をひそめ哀れんだように放たれた声の距離に、少女が既に目の前へ到着してしまったことを理解した。
(この一瞬でここまで距離を詰めてきたのか.....)
緊張を気取られぬように至って冷静を装いながら、少女に語り掛ける。
「君は何だ、隊員では無いようだが...彼の言う通り鬼だというならば斬る!!」
(そうだ、例え少女だろうと、鬼ならば斬らねばならない!!)
俺は咄嗟に隊員の前へ周り刀を抜いた。
いや、
抜いたはずだった。
「なっ!」
刀にかけられた俺の手に、少女の手が重なり動きを止められているのに気づいて俺は目を見開く。
『治めなさい。敵意はございません。その方の言う通り私は鬼です。訳あって鬼殺隊のお館様に会うべく、ここまで参りました。』
「お館様に?」
自分の動きが止められた事、少女の動きに目が追いつかなかった事。
今起こったことを受け入れる間もなく、少女は話し続ける。
『鬼を信用出来ないのは分かります。どうぞお好きなように拘束してくださいまし。抜刀したままでも構いません。どうかお館様にお目通りを。』
どうするべきかなど、普段の俺なら考える事もなくこの少女を斬っていた筈だ。
何を馬鹿げた事を言っているのだと。
だが、
鬼気迫る女の表情に、何を血迷ったのか俺は
「.....分かった」
本部へ連れて行くことを承諾してしまったのだった。
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