第1章 壱ノ型. 出会う
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「うむ!!案外遠いな!!」
雲に隠された僅かな月明かりを頼りに森の中を走る俺の名は煉獄杏寿郎。
鬼殺隊の炎柱だ。
突然だが鬼殺隊の柱というのは皆も知るように激務である。
新入りや、通常の隊員では処理出来ない鬼の元へ派遣されるのだが
今日の任務は特別厳しいようだ。
その伝令が来たのは一刻ほど前だった。
鬼の根城を突き止め隊員を向かわせたのはいいものの、下弦の鬼だったらしく対処しきれないとの事だ。
「よもや下弦とは、犠牲が増える前に合流してやらねば」
鼻につく血の匂いと、所々に倒れた隊員の死体を越えながら森の奥へと向かう。
「ここか、む!」
やっとの思いでそれらしき屋敷の前に着くとすぐに、震える隊員を1人見つけた。
その隊員以外に人の気配を感じ取れない事から察するに、彼が最後の生き残りなのだろう。
「君!よく耐えた!下弦はどこだ!」
足早に隊員の傍に寄るとビクリと肩を震わせ、焦点の合っていない目でこちらを見据た。
怯えきったその目からは涙がとめどなく零れ落ち、金魚のように口をはくはくさせている。
「あ、ああ...は、柱様、お、鬼が下弦を...下弦の首を討ち取りました...」
やっとの思いで絞り出したであろうその言葉に、俺の頭は思考をとめた。
どういう事だと聞く前に大きな音をたてながら屋敷の扉が開き、暗闇から足音が近づいてくる。
誰かが出てきたようだ。
すぐに臨戦態勢に入った俺は身構えつつ目を凝らしてそちらを見つめた。
段々と暗闇に目が慣れかろうじてそれが人影だと判断できたが、
その数秒後に俺はまた驚愕する事になるとは、よもや夢にも思っていなかった。
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