第14章 拾肆ノ型. 遊郭潜入
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同日同時刻"京極屋"
善逸はあれだけかき鳴らしていた三味線を置きふらふらと店内を歩く。
勿論情報収集の為に自慢の耳で聞き耳を立てながら。
しかし先程から、店の女たちの声に交じって聞こえてくる紫苑の苛立った音に内心今すぐ帰りたいと思っていた。
「あ、あの〜、紫苑さんでしたよね...紫苑さんはどうしてそんなに刹那さんに執着してるんですか?」
[は?]
耳が痛くなる程の不協和音に堪らなくなって、小さく紫苑に問いかければそう聞き返される。
質問を間違えたかもしれない。
たらりと背中に冷や汗が伝う。
「いや!別に嫌なら話さなくて良いんですけどね?!ただ気になったっていうか!ごめんなさい!!」
半べそをかきながらしどろもどろ言い訳を述べる善逸を哀れに思ったのか、紫苑はため息をつきながら先程よりも優しい声音で話してくれた。
[どうしても何も、大切だからですよ。この身朽ちても彼女が生きていればそれでいい。私だけじゃありません朱嘉も蛍清も、烟霞だって同じです。]
そう言う紫苑に善逸はどう答えていいのか分からないでいる。
紫苑の言葉は、簡単に言うと刹那が紫苑の世界の中心という事だ。
確かに紫苑は見目麗しく無限列車の任務の時も隠達に優しく指示を飛ばしていて、周りから信頼されていた。
ただ善逸はその時の紫苑の笑顔がどうも本物ではないと感じて気味が悪かったのだ。
貼り付けた、お手本のような口角の上がり方雰囲気の作り方が。
そしてそれは今朝刹那に笑いかける紫苑を見て、確信に変わる。
ああ、これがこの人の本当の笑顔なんだと。
甘く蕩けるような崇拝ともとれる笑顔。