第14章 拾肆ノ型. 遊郭潜入
人が、他人を崇拝してしまう理由なんて一言で表せるものでは無い。
だから尚更気になった。
そんなことを聞いている場合ではないと重々理解した上で。
「何時からそんな風に思うようになったんですか?」
純粋に零れ出した疑問に、紫苑は暫し黙ってぽつりぽつりと語り出す。
[私が姫さんと出会ったのは、まだまだ血の気が多くて無茶ばかりしていた頃でした。任務中にヘマをしましてね、大怪我をして死にかけてたんですよ。その時でした...]
紫苑が言葉を切るのと同時に、善逸の頭の中に記憶が流れ込んでくる。
言うより見るがやすし。
そう考えた紫苑の心遣いだろう。
真っ暗な洞窟で、血溜まりの中に横たわる紫苑に歩み寄る小さな影。
少し幼いが刹那だ。
近寄るなと暴言を吐く紫苑に怯む様子もなく、紫苑の傷口に手を翳してその傷を治してやりながら
【痛いの痛いの飛んでけ】
そうたどたどしく呟く姿が健気で可愛らしい。
血が足りないのかふるりと震える紫苑に自分の羽織をかける刹那。
術の光によって淡く照らされるその体は、
「神様みたいだ...」
ぼそりと呟く善逸に紫苑はふっと吐息のような笑い声をあげ、そうだろうと誇らしげに言う。
[死にかけて礼儀も何も無く失礼な態度をとり続ける私に、姫さんはずっと笑いかけてくれた。恥ずかしい話ですが、俺は姫さんが逢魔を連れてくるその時まで彼女が逢魔の子だと知らなかったんです。人間嫌いだったから、一度も会いに行っていなかったし...]
ただ、と続ける紫苑の音は優しいものに変わっている。
[柄にもなく私は、女神は本当に居るんだと...そう思いました。何よりも尊く美しい魂。その日からです、私が姫さんの為に生きようと誓ったのは...]
しみじみと語る紫苑。
善逸の耳に流れ込む紫苑の音は、愛しさ、崇拝、慈しみ。
そんな心地のいい音ばかりで気を張っていた分、どっと睡魔が襲ってくる。
しかし、
"ひっくひっく、ぐすん"
それに混ざって聞こえたかぼそい泣き声に、善逸の閉じかけた瞼はかっと見開かれた。
「一大事だ、女の子が泣いてる。」