第14章 拾肆ノ型. 遊郭潜入
「おい!俺様を置いていくんじゃねえ!!」
怒って蛍清に近づく伊之助を無視して、蛍清は部屋へと侵入し目の前の光景にため息をついた。
案の定、既に鬼は居ない。
「追いかけっこは好きじゃないんだけどなぁ。」
部屋は酷く荒らされており、先程感じた気配は屋根裏へ逃げたようだ。
その証拠に蛍清の視線は上。
しかし、目線を動かすだけで蛍清は動かない。
飽きたのだ。
今この場で戦えないのなら追っても無意味。
深追いしても無駄に戦力を削るだけ。
この部屋の主が獲物として捉えられたなら、ならば今夜はこれ以上人攫いはないだろうという蛍清の判断だ。
自分の欲に正直な彼らしい判断。
例えそれが宇髄の嫁だろうと、彼の判断は揺るがない。
彼にとって刹那以外の人間が死ぬ事は取るに足らない些事なのだ。
そんな彼と対照的に物音を立て逃げる鬼を追おうと足を踏み出した伊之助の首根っこを掴んで、蛍清は部屋の隅へと投げ捨てる。
「いってぇな!!何すんだてめっ「うるさいよ。」っ!!」
理不尽な行動に反論する余地すら与えず、蛍清は伊之助に冷めた目で詰め寄る。
身体の硬直。
山で暮らしていた時は一度もなかったこの感覚。
伊之助がこれを感じたのは二度。
一度目は煉獄と猗窩座の死闘を目の前で見た時。
そして二度目が、今だ。
目を合わせただけで、戦意が削がれるような細胞の一つ一つが敗北を確信する感覚。
今一言でも言葉を発すれば、目の前の鬼神は自分を殺すだろう。
そう漠然と理解した。
黙ったまま動かない伊之助に満足したのか、蛍清は子供のように笑って部屋の中を見渡す。