第14章 拾肆ノ型. 遊郭潜入
『私は別に構わないけ「駄目ですよ。」紫苑...』
肯定の言葉を呟きかけた刹那を遮ったのは、任務から帰ってきた紫苑だ。
高く括った藤色の髪を揺らしながら流れるような動きで刹那の前に跪き、その手をとる。
彼の動きに合わせ腰に携えた鎖がシャラリと鳴った。
『おかえりなさい、紫苑。』
「ただいま戻りました。姫さん、どうか考え直してください。貴方を任務とはいえ遊郭に潜入させるだなんて、私は逢魔に合わせる顔がなくなってしまう。」
労う刹那の言葉に優しく笑ったかと思えば、瞬間苦しそうに言う紫苑に流石の刹那も口篭る。
ただ、宇髄も嫁の安否を知るためにここで引き下がる訳にはいかない。
頑なに刹那の遊郭潜入を拒否する紫苑の肩を掴み、食ってかかる。
「別に客を取れって言ってるわけじゃねえ。いざという時自分の身を守れて、器量が良い。そういう人材が刹那しかいねえんだよ。わかるだろ。」
「はぁ...分かりませんね、というか分かりたくもありません...」
宇髄の言葉に紫苑の眉間に皺が刻まれた。
掴まれた肩から宇髄の手を払い除け、すっと立ち上がり目を合わせる。
宇髄と変わらぬ背丈の紫苑。
大男が2人睨み合う異様な光景に、炭治郎達3人は極力声を出さずに縮こまるしかない。
「何度でも言います、遊郭に姫さんを向かわせるなんて絶対に駄目です。」
「くそ、てめえ見かけによらず頑固だな。」
「そういう問題じゃない。貴方の嫁の不始末に姫さんを巻き込むなと言ってるんです。」
「あ?」
「ああ、嫌ですね。人間は短気だから困る...この程度の煽りにかかるとは、自分を弱者だと言っているに過ぎない。」
「っ!!てめぇ...」
『ちょっと2人共...』
一触即発。
今にも抜刀しそうな2人の雰囲気に、その場の空気が冷える。
紫苑の気迫に刹那も困惑気味だ。