第14章 拾肆ノ型. 遊郭潜入
目の前にいるのは、あの鬼神達の頂点に立つ人物だ。
猛々しく己の刃を振るい、鬼の術を使って戦う朱嘉達を見ていたから彼等を率いる彼女の父はどんな人かと思っていたが。
彼からは猛者特有のピリピリと痺れるような鋭い気配は感じられず、ただひたすらに自分の娘を案じる温かさだけがあった。
「あの子は賢いから上手くやってるだろうが、生い立ちのせいで誤解されることも多くてな...父親としては、どうも気になっちまう。」
端正な顔を歪ませ苦しそうに笑う彼を見て俺は切ない気持ちになる。
きっと直接会いたいだろう、
その腕に抱きたいだろうと思ったからだ。
黎明に散ると思われたあの時の自分のように。
「彼女は、とても元気だ。皆に慕われ愛されている。どうか安心して欲しい。」
呟く俺に、彼はより一層笑みを深め、
「そうか。」
とだけ呟き俺の答えに気分が良くなったのか刹那の小さな頃を教えてくれた。
産まれた時どれ程幸せだったかとか、刹那に初めて泣かれた日、初めて言葉を喋った日、初めて歩いた日、初めて朱嘉達と会った日の事とか。
初めて、初めて、初めて。
彼の口から出てくる沢山の刹那の初めてはどれも暖かく綺麗だ。
しかしその思い出話も彼と刹那が鬼舞辻に襲われた年頃でぴたりと止まってしまう。
「ああ、会いてえなあ。あの子の成長をこの手で感じて、沢山褒めてやりてえなあ...」
一瞬俯き再び顔を上げた彼の表情は頭上に広がる青空のように晴れ渡っている。
言葉と合わぬその表情に、
「俺は以前刹那の記憶の中で貴方の首が斬られる所を見た。亡くなったのだと思っていたが、朱嘉から貴方の亡骸が地獄に戻らないと聞いてずっと思っていた事がある...もしや貴方は、今も何処かで生きているのか?」
ずっと感じていた疑問を投げかければ、
「生きてると言えばそうかもな。多分もうすぐ目覚める。」
そう当たり前のように言われた。
「目覚めるとはどういう...」
首を傾げる俺に彼はふっと笑う。
と同時に、彼の首に巻きついている青い紫陽花が鈍く光ったような気がした。