第13章 拾参ノ型. 杏の心痛
「今日は一緒に寝てくれないか。まだ君を離したくない。」
煉獄が初めて吐露した甘えの言葉に、刹那は抱きしめる力で答える。
それを肯定と受け取り、
煉獄はそのまま刹那を軽々と抱きかかえ、自室へと入る。
一組だけの布団は2人入るには少し狭いが、煉獄にとっては十分だった。
日の匂いがする少し冷たい布団に潜って当たり前のように絡む互いの足先から体温を分け合えば、誘われるような眠気に襲われる。
心地いい温もりに、このまま眠るのも悪くないと瞼をおとす煉獄だが、
『杏寿郎、貴方ここ最近少し不機嫌だったでしょう。』
「む!?」
そうふと、思い出したかのように言う刹那。
穏やかな空気の中突如核心を突かれ、煉獄は閉じかけた目を見開きバツが悪そうに唸った。
「いや、大した事じゃない。」
『嘘は駄目よ。』
有耶無耶にしようとしたが、どうやら刹那には全てお見通しのようで。
今更繕っても意味は無い事は、煉獄が一番よく分かっている。
しかしいざ言葉にするとなると、どうしたものか迷ってしまう。
悩みに悩んで、至極当たり障りのない言葉を並べてはみるが、
「う、ううむ...君は人気者だろう?毎日君目当ての客人を相手していたが、下心を抱いた者も少なくなくてな...その、何と言うか、嫉妬...していたんだ...」
最後の方は消え入りそうな声だった。
月明かりだけが差し込む薄暗い部屋に、刹那の紅い瞳がきらりと光った。
何処か楽しそうなその瞳から煉獄は目を逸らすことができない。
『そう、ねえ教えて...貴方はどんな時嫉妬してしまうの?』
意地悪気に言いながら笑う刹那、その顔はまるで煉獄をからかう時の宇髄だ。
さあ、と急かすように自分の唇をなぞる刹那の指の優しい動きにやられ、遂に煉獄も白旗を上げる。
やはり煉獄も刹那には敵わないのだ。