第13章 拾参ノ型. 杏の心痛
刹那の色香にあてられ、疼く下半身が己に色の欲求があった事を知らせる。
鬼殺後に猛ってしまいそういう処理をする事はあったが、どれも自分だけで済ませていたし
生憎誰かを抱きたいなど思ったこともなかった。
知識がない訳では無いし、興味が無い訳でもない。
ただ歯止めが聞かぬほど溺れる相手がいなかっただけ。
しかし今、本能が叫んでいる。
刹那を
この運命とも言える程に恋焦がれた1人の女性を抱きたいと。
ようやく離れた唇は、艶やかに濡れていて蕩けきった目に今すぐにでも刹那を自分のものにしたいと思ってしまう。
「はぁっ...刹那...」
もっと近くに刹那を感じたくて、彼女を引き寄せた己の手は少し震えていたかもしれない。
しかし、途切れかけた理性の糸は後方に聞こえた足音によってかき消された。
「杏寿郎、ここは廊下だぞ。場所を考えろ。」
「ち、父上!」
何時から居たのか、気まずそうな顔の父が自身のすぐ後ろに立っていて、咄嗟に刹那を自分の胸へと抱き寄せる。
今の刹那の表情は男にとって毒だと、何処かで理解していたし
何より刹那のこんな姿を父であっても自分以外には見せたくなかったのだ。
そんな煉獄を見て、槇寿郎は困ったように溜息をつきつつ自室へと踵を返した。
「千寿郎が見える場所では控えなさい。」
ぶっきらぼうな言葉を残して歩いていってしまう父の背中を目で追う。
槇寿郎が自室へと入ったのを確認してから、煉獄は漸く安堵のため息を吐いた。
猛っていた下半身は、父の登場によりなんとか平静を取り戻している。
正直危なかった。
父が来なければこの場で刹那を押し倒していただろう。
「すまない刹那、苦しくなかったか?」
そう言ってずっと胸に押し付けていた刹那を解放すれば、
「いいのよ、貴方の腕の中にいるのは嫌いじゃないから。」
そう言ってくすくすと笑った。
先程とはまた違った可愛らしい微笑みに、煉獄も眉を下げて笑う。