第13章 拾参ノ型. 杏の心痛
『はあ....』
青年が完全に見えなくなってから刹那は力が抜けたように縁側へ座り込んだ。
懐から煙管を取り出し火をつける姿が綺麗で、見惚れる煉獄に
【此方へ】
声は出さずそう口の動きだけで伝える刹那。
同じように分かったと伝え、誘われるまま煉獄も素直に腰を下ろす。
肩が触れ合うほどの近さ、目を閉じれば肩越しに互いの心音さえ聞こえてしまいそうだ。
ゆっくりと刹那の口から吐き出される煙を目で追い、やっと出来た2人の時間に浸る。
1日の内、ほんの数十分。
刹那が煙管をふかし、月を見上げるこの時。
唯一この時間だけは、煉獄は刹那を独占する事ができる。
恋仲になったからと言って、療養中の煉獄と任務をこなす刹那の時間が増える訳でもなく
やっと時間が合ったと思えば刹那は誰かの相手をしていて。
仕方の無いことだと分かっているし、もし自分が療養を終え任務に出始めればもっと2人の時間は減るだろう。
だからこそ今目一杯刹那を独占したいのだが、如何せん刹那は優しすぎる節がある。
それが刹那の長所だと分かっている。
分かっているが、自分ではない誰かに笑顔を向ける場面を見る度胸を痛ませる日々。
しかしそれも刹那がここまで無防備になるのは自分だけなのだと思えば、少し気持ちが楽になる。
刹那の一言一句に一喜一憂し、
見知らぬ男に微笑む刹那を見て痛む胸。
きっとこれが嫉妬なのだろう。