第13章 拾参ノ型. 杏の心痛
煉獄よりも少し背の低いその青年は、煉獄の大声と勢いにビクビクと肩を跳ねさせながらそれでもめげず毎日やってくる
任務で家にいる事の少ない刹那の代わりに毎度煉獄が対応をしていたが、初対面から分かってしまった。
煉獄だからこそ分かったのかもしれない。
青年の刹那に対する恋心を。
頬を染め、刹那への用事を語る彼の顔は正に恋するそれで、それにすら心が軋むのを感じ醜い自分の思いが恥ずかしかった。
生憎煉獄のいる場所からは何を話しているか明確に聞き取ることは出来ない。
(すまないが、今回だけは許してくれ。)
人の良さそうな笑顔で刹那に語りかける青年に悪いとは思ったが、会話が聞こえる範囲まで近づき柱に隠れ聞き耳を立てる。
耳を澄まし最初に聞こえたのは、青年の緊張に裏返った声だった。
「あの、俺、貴方にどうしても直接会いたくて...」
泣き出しそうなほど震える青年に対して、聞きなれた刹那の優しい声が問いかける。
『毎日来てくれていたのでしょう?杏寿郎から聞いておりました。急ぎの用事だったのですか?』
「いや、用事というか、伝えたい事があって。俺...貴方の事が、刹那さんの事が好きなんです...」
思っていた通りの内容に、煉獄は頭を抱えた。
(やはりか...)
徐々に小さくなる青年の語尾に、今青年がどんな表情をしているのか安易に想像出来る。
己も刹那に想いを伝える時そうだったように、青年もまた緊張に押しつぶされそうなのだろう。
そう思ってしまえば、その会話に割って入る事など煉獄の性格上出来る訳もなく青年と同じように静かに刹那の返事を待つ。
『ありがとう。でも、その気持ちを私は返してあげる事が出来ないわ。』
暫しの沈黙の後凛とした声音が庭に響き渡り、それと共に青年の息を飲む音が聞こえた。