第13章 拾参ノ型. 杏の心痛
「「ありがとうございました!!」」
「次こそは勝つからな!負けた訳じゃねえからな!!」
「うむ!また明日も来るといい!!」
元気な声をあげて帰っていく3人に手を振りながら煉獄は空を見上げる。
一本ずつと言ったのに、結局あれから随分長い時間手合わせをしてしまった。
全員仲良く湯浴みをし、有り余る体力にまた鍛錬を始めようとしたので千寿郎に怒られてしまったし。
あの時の千寿郎の顔といったら。
通りがかった槇寿郎でさえ、青ざめてしまう程だった。
(あまり無理はするなと胡蝶にも怒られてしまうな!!)
すっかり茜色に染まってしまった空に、
[どいつもこいつもですよ。]
と、笑顔のまま煉獄への嫌味を言う胡蝶が見える。
幻覚だ。
そこまで怒られない事を願いたい。
明日からは気をつけよう。
明日には忘れてしまうだろう決意を胸に、煉獄は自室へと続く廊下を歩く。
ふわりと香る夕餉のいい匂いと、千寿郎が料理をする音を耳にして自然と口角が上がった。
トントンと規則的に聞こえる包丁の音は、どうしてこうも落ち着くのか。
煉獄が帰ってきてから槇寿郎も含め、全員で食卓を囲む事が増えたというのもあるのか
最近の煉獄は食事の時間が待ち遠しくて堪らない。
その証拠に先程よりも軽やかになる足取り。
本当に怪我人かと疑ってしまうくらいに、その足取りはしっかりとしている。
(千寿郎が今日は魚だと言っていたな!早く行って俺も何か手伝おう!)
期待の声を上げる己の腹にすっかり自分が悩んでいた事すら忘れ浮き足だつ煉獄だが、その歩みは前方にうっすらと見えた人影を認識した事によって止まってしまった。
庭先に立つ2人の男女。
1人は刹那。
もう1人は、最近よく刹那に会おうと煉獄家を訪れていた青年だ。