第12章 拾弐ノ型.焦がれる
今や煉獄の恋心は蝶屋敷の人間なら全員知っている。
それ程に煉獄は分かりやすかった。
だからこそ胡蝶も予定より早めに自宅療養に移した訳だが。
「では胡蝶!!世話になった!」
眩しいほどの笑顔で蝶屋敷を去っていく煉獄を見送りながら、胡蝶は安堵のため息を吐く。
「本当に肝が冷えましたよ煉獄さん。」
そう呟き胡蝶はあの朝の事を思い出す。
あの日鎹鴉に呼ばれ現地へ赴いた胡蝶。
隠と共に処理にあたる中、地面に伏せた煉獄を見て酷く焦ったものだ。
何とか応急処置を施し、脈が安定したあの瞬間を今でも鮮明に覚えている。
〈姫さんが杏寿郎の致命傷を肩代わりした。〉
紫苑に初めそう言われた時何を言っているのか理解出来なかったが、
刹那の術で死んだはずの煉獄が蘇生した事。
そしてその術の代償として、煉獄の鳩尾に開いた致命傷を刹那が肩代わりした事。
事の流れを理解した時は酷く驚いた。
大抵の傷はすぐに治るとは言え傷を肩代わりするなんて、ましてや人体にとっての急所である傷を。
あまりにも危険すぎる。
いつもならここで、もっと自分を大切にしてくれと刹那を叱咤する胡蝶だが、
喉元まで出かけた言葉は、蛍清に支えられながら虚ろな目で煉獄の名を呼ぶ刹那を見て完全に行き場を失ってしまった。
(煉獄さんの治療もでしたけど、何より刹那さんを落ち着かせるのが大変でしたね。)
きっと今煉獄の回復を誰よりも喜んでいるのは刹那だろう。
あの時ほど、刹那が感情をあらわにし取り乱した所を胡蝶は見た事がないから。
(多分刹那さんも煉獄さんの事を...)
浮かぶひとつの考えに胡蝶は優しく微笑む。
いつものように取り繕った笑顔ではなく、素の笑顔で。
「はあ本当に、早くくっつけば良いんですよあの2人は。」
そう呟き、胡蝶は未だ多くの怪我人が眠る蝶屋敷の中へと消えていく。
大切な親友と、戦友の事を思いながら。