第11章 拾壱ノ型. 無限列車
刹那がそう言うやいなや、咲き誇っていた彼岸花は一気に枯れ落ち舞う花弁は紅い鎖へと姿を変えた。
『一緒に帰りましょうね、杏寿郎』
鎖は刹那の腕から煉獄の腕へと伸び2人を繋ぐ。
瞬間刹那の左目が潰れた。
続くように頭部、脇腹、そして鳩尾に風穴。
煉獄と全く同じ傷が刹那の体に次々と現れる。
痛みに一瞬顔を歪ませる刹那だが、口から血を吐きながらも煉獄の頬を撫でる手の動きは変わらない。
囲む朱嘉達は悲痛な表情を浮かべながらも、黙ってその光景を見つめている。
流石半鬼と言うべきか、徐々に塞がる刹那の傷に炭治郎、伊之助、善逸は目を見開いた。
そして気づく。
先程確かに消えたはずの煉獄の鼓動が再び動きだしたのを。
炭治郎は匂いで、善逸は耳で、伊之助は野生の勘で。
徐々に消え始める鎖の元で、煉獄の致命傷であるはずの穴が塞がったのだ。
鎖が完全に消えた頃には、煉獄の呼吸はしっかりとしたものになっていて
それと呼応するように刹那の体がぐらりと後ろに倒れた。
いや、正確には倒れそうになった所を蛍清が支えたのだが
それでも3人の目の前で起こったことは異常で、理解し難いものだ。
しかし現状を理解するよりも先に、3人の体は吸い寄せられるように煉獄の元へと向かっていた。
「「煉獄さん!!!」」
「ギョロギョロ目ん玉!!」
握った手は暖かく、上下する胸で呼吸している事もわかる。
あまりの事に泣きじゃくり言葉を発することも出来ない3人が刹那を見れば、疲弊しきった刹那が優しく微笑んでいた。
息もたえだえな刹那の代わりに、紫苑と烟霞が3人に先程の奇跡を説明する。
「刹那様が離れかける杏寿郎の魂を体に引き戻したんだ。その上傷まで請け負って...」
「まあ致命傷に集中していたから、その他の傷はまだ完治していないでしょうけど、2、3ヶ月もすれば以前と変わらない生活が送れるはずです。」
3人を安心させるように笑った紫苑。
炭治郎は煉獄の手を握ったまま紫苑と烟霞の言葉を反芻する。
「煉獄さんは助かるんですね...」
どういう原理なのかは分からないが、これが鬼神の力と言うものなのだろうと炭治郎は割とすんなり納得してしまう。