第11章 拾壱ノ型. 無限列車
「それから、刹那に...宵柱の暁天 刹那という人に伝えて欲しい。」
俯いていた顔を上げ一呼吸置いて、煉獄は今までで1番の笑顔を炭治郎に向ける。
穏やかで優しいそんな笑顔を。
「俺は、刹那の事を...一等愛していると。」
炭治郎には分かる。
煉獄のこの笑顔は、今目の前に居る自分ではなく
きっと煉獄の帰りを待っている刹那に向けられたものなのだと。
炭治郎達に時折見せていた笑顔とは明らかに違う、安心仕切ったその顔に炭治郎の目からは止めどなく涙が零れた。
刹那に会った事のある炭治郎だから、尚のこと悔しいのだ。
あんなにも優しい匂いをさせる刹那の元へ、煉獄を帰してやれない己の非力さが。
「うぅっ...うっ...」
泣き続ける炭治郎を見つめていた煉獄だが、徐々にその視界も霞みだし瞼が重くなってくる。
ふと、炭治郎の背後に母の姿が見えた。
朝日に照らされているからか、少しだけ光る母はじっとこちらを見つめている。
(母上...俺は、ちゃんとやれただろうか。やるべき事果たすべき事を、全うできましたか...)
心の中で母に問いかける。
ずっと心を燃やし続けてきた。
何があろうと、誰が死のうと、どれだけ寂しかろうと
突き進みここまで来た。
だからこそ、聞きたかった。
己がしてきた事は意味があるのか。
間違っていなかったか。
煉獄の問いに母は優しく微笑む。
【立派に出来ましたよ。】
母の声は煉獄にしっかりと聞こえた。
満たされた表情を浮かべ、煉獄の体から力が抜ける。
(いよいよ、か...)
五感が閉ざされ始め自分の命の灯火が終わりかけていることを感じ、覚悟を決めた煉獄だが、
閉じかけた瞳は背後から聞こえた声に再び開かれた。
『杏寿郎!!!』
それは置いていく筈だった唯一の未練の声。