第11章 拾壱ノ型. 無限列車
「お前の負けだ!!煉獄さんの!勝ちだ!!うあああああああっ!!!」
泣き崩れ地面に伏せる炭治郎を瞳に移し、ふっと眉を下げて笑う煉獄のなんと穏やかなことか。
「もうそんなに叫ぶんじゃない。腹の傷が開く、君も軽傷じゃないんだ。竈門少年が死んでしまったら俺の負けになってしまうぞ。」
己が一番重症だというのに、炭治郎の心配をしてくる煉獄に
炭治郎の涙は更に溢れる。
「こっちにおいで、最後に少し話をしよう。」
酷く優しく、明朗快活な最初の印象とはかけ離れた煉獄の声音に
炭治郎は震える足を進めた。
煉獄の目の前に座れば、嫌でもその傷が目に入る。
自分達を守りぬいた証。
それはあまりにも痛々しく大きい。
「思い出したことがあるんだ、昔の夢を見た時に。俺の生家、煉獄家に行ってみるといい。歴代の"炎柱"が残した手記があるはずだ。父はよくそれを読んでいたが...俺は読まなかったから内容が分からない。」
そこまでいって、途切れ途切れになる煉獄の声。
鳩尾に刺さったままだった猗窩座の腕が、太陽によって灰と化す。
腕があった場所は大きな空洞となり、辛うじて塞き止められていた血が滝のように溢れ出していた。
「君が言っていた"ヒノカミ神楽"について何か...記されているかもしれない。」
それでも尚言葉を紡ぐ煉獄。
痛みは想像を絶するものだろう。
その証拠に、彼の四肢は最早ぴくりとも動かないのだ。
「煉、煉獄さん、もういいですから。呼吸で止血してください...傷を塞ぐ方法は無いですか?」
「無い。俺はもうすぐに死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。」
煉獄の死。
炭治郎にとってこの言葉がどれだけ受け入れ難いものか。
そんな炭治郎を真っ直ぐ見つめ煉獄は家族への言葉を託す。
「弟の千寿郎には、自分の心のまま正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。父には体を大切にして欲しいと、それから...」
言って、煌めく煉獄の双眼が炭治郎を見すえた。
「竈門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は、誰が何を言おうと鬼殺隊の一員だ。」