第11章 拾壱ノ型. 無限列車
(梃子摺った。早く太陽から距離を...!)
凄まじい速さで逃げ走る猗窩座。
しかし追う炭治郎はそれを許さない。
神楽を纏わせ炭治郎の手から離れた日輪刀は真っ直ぐ猗窩座へと迫り、その胸を貫いた。
一瞬たじろぐがそれでも止まらない猗窩座に、炭治郎は叫ぶ。
声の限り、そうでもしないと泣いてしまいそうで。
「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!!」
炭治郎の言葉に猗窩座がじろりとこちらを振り向いた。
額に青筋を浮かべ、酷く苛立っている様子で。
(何を言っているんだあのガキは。脳味噌が頭に詰まってないのか?俺は鬼殺隊から逃げてるんじゃない、太陽から逃げてるんだ!)
煉獄は強かった。
しかしそれでも、猗窩座にはかなわなかった。
(それにもう勝負はついてるだろうが。アイツは間もなく力尽きて死ぬ!!)
力無く項垂れる煉獄を瞳に焼き付け、炭治郎の罵声を聞きながら、猗窩座の姿は
完全に林の中へと消える。
「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!生身の人間がだ!傷だって簡単には塞がらない!失った手足が戻ることも無い!!」
猗窩座の姿がみえなくなってからも、炭治郎は叫び続けた。
自分達を守り、その命を燃やした煉獄の為に、
今の炭治郎にはそれしか煉獄の為にしてやれる事が無いから。
「逃げるな馬鹿野郎!馬鹿野郎!卑怯者!!」
いつの間にか合流した善逸も、炭治郎の叫びを聞いて伊之助と一緒にボロボロと泣いている。
「お前なんかより煉獄さんの方がずっと凄いんだ!!強いんだ!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!!」
言葉は強く、暖かく、
満身創痍の煉獄を包み込む。
心のどこかで父に求めていた自分を認めてくれる言葉を、炭治郎が放ってくれている。
それだけで煉獄は少し救われた気持ちがした。