第11章 拾壱ノ型. 無限列車
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風鈴の音と、母の部屋の畳の香り。
眠る千寿郎。
懐かしき情景。
母の深紅の瞳が煉獄を見つめていた。
何故自分か強く生まれたのか分かるかと聞かれ、答えられなかったあの日の煉獄に
病に蝕まれ余命幾許も無い母は言う。
「弱き人を助けるためです。生まれついて人よりも多くの才に恵まれた者は、その力を世のため人のために使わねばなりません。天から賜りし力で人を傷つける事、私腹を肥やすことは許されません。」
そうしっかりとした声音で呟く母を見つめ、煉獄はひとつも取りこぼさぬようにと背筋を伸ばす。
「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任をもって果たさなければならない使命なのです。決して忘れることなきように。」
責務。
煉獄に心の在り方を教えてくれたのは、この時の母だった。
そっと広げられた母の腕に吸い込まれるように飛び込めばふわりと抱きしめられた。
幼い煉獄を抱きしめた母の手はまだ温かく、柔らかに頭を撫でられるのが心地いい。
「私はもう長く生きられません。強く優しい子の母になれて幸せでした。」
頭上から聞こえる母の声。
優しく、強い人だった。
「あとは頼みます。」
泣いているところを見るのはこれが初めてで、煉獄は何も言わず只抱きしめられた。
暖かで悲しい記憶。
己の心に炎が灯った日の記憶。
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