第11章 拾壱ノ型. 無限列車
どれだけ時間が経っただろうか。
いや、それ程時間は経っていないのかもしれない。
途切れた攻防の中心には向かい合う煉獄と猗窩座。
猗窩座は再生を終え、無傷に戻っている。
しかし煉獄は、
「ハァ、ハァ...」
左目は潰れ、肋が折れている。
あの状態では内蔵も危ないだろう。
取り返しがつかないと言った猗窩座の言葉が、理解し難い現実を突きつける。
煉獄の死という現実を。
「どう足掻いても人間では鬼に勝てない。」
猗窩座は言う。
だが、煉獄の心の火はまだ消えていなかった。
いや、消えてなるものかと更に燃え上がる。
(心を燃やせ!限界を超えろ!)
乱れた呼吸を再び立て直し、深く息を吸う。
途端今まででの比では無いほどの闘気が煉獄から迸った。
正にそれは炎。
煉獄を包むその闘気は、煉獄が炎柱である所以だ。
「俺は俺の責務を全うする!!ここにいる者は誰も死なせない!!」
隙のない構え。
煉獄は最後の力をふり絞る。
200人の乗客と、後ろに居る後輩達を守る為に。
彼等に猗窩座の狂気が及ばないように。
「炎の呼吸、奥義...」
凄む煉獄の気迫は、猗窩座の皮膚をビリビリと刺激した。
「素晴らしい闘気だ...それ程の傷を負いながらその気迫、その精神力。一部の隙もない構え。やはりお前は鬼になれ!杏寿郎!!俺と永遠に戦い続けよう!」
喜びに叫ぶ猗窩座へ煉獄は真っ直ぐ立ち向かう。
これが最後の攻撃である事は誰の目にも明らか。
「玖ノ型、煉獄!!」
「破壊殺・滅式!!」
凄まじい轟音と土煙。
2人の姿を見失った炭治郎と伊之助は目を凝らす。
風によって土煙が徐々に流されて、
2人の目にとびこんできたのは、
「死ぬ...!!死んでしまうぞ杏寿郎!鬼になれ!!鬼になると言え!!お前は選ばれし強き者なのだ!!!」
焦ったような声をあげる猗窩座と
鳩尾に猗窩座の腕が貫通した煉獄の姿だった。
ごぽりと口から血を吐きそれでも尚立つ煉獄。
激しい痛みに意識が飛びかける。
猗窩座の叫びと炭治郎のくぐもった悲鳴を聞きながら、
彼の頭の中には幼い頃母が言った言葉が、情景が、走馬灯のように流れ込む。