第11章 拾壱ノ型. 無限列車
「君と俺が何の話をする?初対面だが、俺はすでに君のことが嫌いだ。」
あっけらかんと言う鬼に煉獄もまた問いを止めない。
「そうか、俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る。」
鬼の言葉に煉獄は表情をひとつも動かさない。
まさに虚無。
元々鬼に対して強い鬼殺の精神を持つ煉獄だ。
当たり前といえば当たり前なのだが、しかしどれだけ煉獄に冷たくあしらわれようと鬼の饒舌は止まらない。
その上異常な提案をもちかけてくる。
「お前も鬼にならないか?」
「ならない。」
即答した煉獄に鬼は更に言う。
「見れば解る。お前の強さ。柱だな?その闘気、練り上げられている。至高の領域に近い。」
「俺は炎柱。煉獄杏寿郎だ。」
「俺は猗窩座。杏寿郎、なぜお前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう。人間だからだ。老いるからだ、死ぬからだ。」
淡々と言う上弦の鬼、猗窩座。
彼は煉獄をどうしても鬼にしたいらしかった。
鬼になる事で煉獄の強さが永遠のものになると嬉嬉として語っている。
それでも煉獄は毅然とした態度を崩さなかった。
「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ。」
静かに、しかし強い意志を感じる煉獄の言葉に
地面に伏せたままだった炭治郎も顔を上げる。
器量が違う。
くぐり抜けてきた場数が違う。
余りにも成熟した煉獄の精神に、炭治郎は只黙って煉獄の言葉を聞いていた。
「強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない。この少年は弱くない、侮辱するな。何度でも言おう。君と俺とでは価値基準が違う。」
カチャリと刀を持ち直す音がする。
煉獄は臨戦態勢。
倒そうとしているのだ。
この鬼を、猗窩座を。
鬼殺隊最高位・炎柱 煉獄杏寿郎の名の元に。