第11章 拾壱ノ型. 無限列車
幸いお互い柱として多忙な毎日だ。
図らずともすれ違いの日々にはなるのだが、それでも住む場所は一緒だ。
今まさに恋を自覚した恋愛初心者の俺には、
これまで通り振る舞うと言う事が一番難しい。
きっと不自然な態度になってしまうし、
顔に出さずとも、もし俺の態度が原因で彼女が傷つく事があれば俺はきっと耐えられない。
だからこそ困っているのだ。
(一体どうするのが普通なんだ...)
あれこれ考えうむむと唸れば、ふと足元に影がさす。
顔を上げた先にいたのは、
『杏寿郎?』
今まさに話題の刹那の姿。
隊服を来ているからこれから任務に向かうのだろう。
刹那への恋を自覚して間もなく出会ってしまうとは思わなかったものだから、上手く返答ができない。
そんな俺を不思議に思ったのかどうなのか、
次に感じたのは温もり。
(待て、これは)
抱きしめられている。
気づいたのはコンマ3秒ほどたった頃だろうか。
どうすることも出来ない己の両手をおずおずと刹那の背中に回す。
そのままの体制で刹那が唸って、何かしただろうかと焦る俺の頭上から
『やっぱり体が熱いわ。顔も赤いし、熱があるの?』
的を外れた声が降ってきた。
『無理をしすぎなのよ。今日は早く帰って千寿郎にお粥でも作ってもらいなさいな。』
俺の返事を聞く間もなくそう言って、頭をひと撫でしてから離れる刹那の体に名残惜しくなるのはやはり俺が彼女に恋をしている証なのだろうか。
宇髄に俺を屋敷まですぐ送るようにと念を押して、何事も無かったように去っていく刹那の背中を目で追えばポンと肩を叩かれる。
宇髄だ。
「煉獄、ありゃ手強いぞ。」
「俺もそう思う。」
先程よりも赤くなった顔を片手で隠しながら出たのは、なんとも情けない言葉。
隣から注がれる哀れみの視線を一心に受けながら、
これから始まるであろう自分の苦悩に思いをはせ、すっかり温くなってしまった茶を啜った。
しかし、俺達鬼殺隊に
未来を語り穏やかな時間を過ごす暇すらない事を、俺は次の任務で骨の髄まで知る事になる。