第10章 拾ノ型. 炭治郎と禰豆子
そう考えながら蝶屋敷へと連れられた炭治郎だが、思いのほか重症な自身の体の療養が最優先であった上に
息付く間もなく始まった地獄のような機能回復訓練に、刹那のことを考える暇すらなくなってしまった。
共に回復訓練を行っていた、金髪の少年我妻善逸と、猪頭が印象的な嘴平伊之助は
数日もしないうちに訓練へ向かうことすらしなくなってしまう。
それでも炭治郎があきらめなかったのは、
(俺は長男だ!やれる!頑張れ炭治郎!)
長男だというその心持ちと、未だ眠り続ける禰豆子を守れる男になるという決意の賜物だろう。
今日もまた炭治郎は蝶屋敷の女の子達に教えてもらった全集中・常中を会得するため、深夜の瞑想に励む。
時折頭の中に浮かぶのは怒り狂った鋼鐵塚の顔ばかり。
切れそうになる集中の糸をどうにか手繰り寄せ、呼吸を整える。
そんな炭治郎の背後に音もなく近づいたのは、
「もしもーし」
炭治郎の様子を見に来た胡蝶だった。
「頑張っていますね。お友達2人はどこかへ行ってしまったのに。1人で寂しくないですか?」
そのままちょこんと炭治郎の横に腰掛ける胡蝶。
胡蝶の問いに炭治郎は朗らかに答える。
「いえ!できるようになったら、やり方教えてあげられるので!」
完璧なる善意。
そう。
これが竈門炭治郎という男である。
「....君は心が綺麗ですね。」
なかなかな善人返答に胡蝶はやや引き気味だ。