第10章 拾ノ型. 炭治郎と禰豆子
『そんなに謝らなくてもよいのです。こちらも前を見ていなかったのですから。ごめんなさいね。お詫びにこれをあげましょう。』
内緒ですよ?
そう言って、隠の口に飴を放り込む刹那。
『貴方にもあげましょうね。何だかとても疲れているようだから。』
そのまま炭治郎の口にも飴が入れられる。
口に広がる甘さに癒されつつも、炭治郎は気が気ではない。
鬼を狩る組織の本部に、鬼本人がいるのだから無理もないだろう。
いまいち状況を理解出来ない炭治郎を他所に、蛍清に急かされた刹那はもう一度隠と炭治郎に謝罪して歩いていってしまった。
向かう先は先程まで自分がいた場所。
(何故ここに、というより何故柱と呼ばれてるんだ。)
思ってはいても声は出ない。
否、出せなかった。
刹那と言うよりも、刹那の周りにいた朱嘉達の無言の圧力がそうさせたのだろう。
しばらくそのまま動かず刹那達の姿を見送ってから再び走り出した隠に、炭治郎は焦ったように問いただした。
「あ、あの!今の人達鬼ですよ!行かせていいんですか!?」
焦る炭治郎に反して、隠は真っ青な顔色はそのままで答えてくれる。
「あの人達はそこらの鬼とは違う、鬼神って言うんだとよ。今鬼殺隊はその鬼神と同盟をくんでんだ。まあ実際、宵柱はすげえ優しい方なんだけど、周りがなあ....」
隠はそれ以上教えてくれなかった。
真っ青を通り越し、白くなった隠の顔色がこれ以上聞いてくれるなと言いたげだったから炭治郎もそれ以上は聞けない。
未だ口の中にある飴玉を転がしながら、刹那の姿を思い出す。
先の柱達への無礼を禰豆子を担ぐもう1人の隠と交互に責められつつ、蝶屋敷へと運ばれる炭治郎。
隠の言葉を右から左へ流しながら彼の頭の中はもう、鬼神と呼ばれた刹那達のことで一杯だった。
(鬼の匂いだけど、嫌な匂いじゃなかったな...後で誰かに聞いてみようあの人達の事。)