第8章 捌ノ型. 悪意には悪意を
「暫くは平穏な日々が続いた。逢魔は人間界に留まり、俺やあいつらは地獄とこちらを行き来して。でもあの日、全てが絶望に変わったんだ....」
「鬼舞辻無惨の襲撃...」
「なんだ、お嬢に聞いたのか?」
「いや、以前血鬼術にかかった刹那の記憶の中で見た...君が刹那を連れて逃げたのも知ってる。」
朱嘉は、そうか、と言ったまままた黙り込んでしまう。
煙管の火はとうの昔に消え去り、地面を見つめる朱嘉の思考は読めない。
ただ、酷く悲しそうな顔だけが鮮明だった。
「そうさ。俺は逢魔に言われるがまま、死にかけの相棒を置いて逃げたんだ。あいつは分かってた。いつの間にか俺の中の太陽が、逢魔からお嬢に変わってた事に。酷い奴だろ。相棒より相棒の娘をとったんだ。」
自嘲気味に笑った朱嘉。
それはどこにいるかも分からない、逢魔への懺悔だったのかもしれない。
長い間苦しんできたのだろう。
吐き出され始めた言葉は止まる事を知らない。
「お嬢はきっと俺を恨んでる。あの日からお嬢は寝る間も惜しんで修行を始めた。それこそ血反吐を吐きながら。誰にも屈さず、誰にも媚びず、玉藻さんの鍛錬に耐えて耐えて。やっとここまで来たんだ。」
「だから君達は、そんな刹那を守ると団結したのか。」
言った煉獄に朱嘉は首を振る。