第8章 捌ノ型. 悪意には悪意を
そんな中、だが、と言う朱嘉。
「あいつは、人間の女に惚れちまいやがった。」
「それが、露柱。刹那の母君というわけか。」
沈黙は肯定。
朱嘉は深く煙を吸い込む。
「最初は逢魔が何を言ってんのか理解出来なかった。俺達鬼神と人間とじゃ流れる時間が違う。それに、俺達は地獄の瘴気を定期的に体に染み込ませねえと、力が出せねえんだ。なのにあいつは、惚れた女が死ぬまで人間界に留まると抜かしやがる。初めてあいつと喧嘩したよ。」
悲しそうにいう朱嘉は顔を伏せながら空中に手を滑らせた。
瞬間現れる映像。
たどたどしい歩みで近寄ってきた刹那が
『朱嘉!』
と満面の笑みで呼ぶ映像だ。
「俺が変わったのはお嬢が産まれてから。最初は殺してやろうと思ってた。逢魔を縛る人間界の大切な物を消してやろうって。でも出来なかった....」
煉獄には朱嘉の言わんとすることが分かった。
きっと朱嘉は刹那を、刹那の父親と同様に愛してしまったのだろう。
映像の中の刹那を見つめる目がそう語っている。
「お嬢を初めてこの手に抱いた時守らねばと思ったんだ。小さな手で俺の指を掴む無垢なあの子を...愛しく思った。紫苑達はうだうだと慕う理由を探してたが、結局の所あいつらも小さい時から見てるお嬢が可愛くて仕方ねえのさ。」
そう言って未だ微笑む宙の刹那に手を伸ばす朱嘉だが、何を掴むことも出来ず映像だけが消え去った。