第8章 捌ノ型. 悪意には悪意を
またもや新情報。
只者ではないと思っていたが、蛍清はここにいる全員が長だという。
簡潔に言うと、今現在地獄を統べるもの。
(だとしたら俺は今、とんでもない者達と会話しているんじゃないのか...)
ひいたはずの冷や汗がぶわりと湧き上がって止まらない煉獄を尻目に、渦中の朱嘉はゆっくりと立ち上がり部屋を出てしまった。
突然の事に、詮索しすぎて気分を害してしまっただろうかと眉を下げる煉獄。
そんな煉獄の気持ちを悟ったのか烟霞が煉獄の肩を叩いた。
「あれは朱嘉なりの着いて来いって意味だ。」
「そ、そうなのか?」
煉獄の問いに烟霞がコクリと頷く。、
「お前は、刹那様を大切に思ってくれているのだろう?俺達の事、刹那様の事、父君の事、知りたいなら行ってくるといい。それが今お前に出来る唯一の事だ。」
烟霞のはっきりとした声音に煉獄の中の炎が燃え上がった。
守りたかった。
誰よりも優しく、他人の事ばかり考え自分の事は二の次な刹那を。
傷ついて欲しくなかった。
そう思っていたのに守れなかった。
あの時刹那 を1人にしなかったら、
柱襲名という大きな議題が、どんな結果であれ共に行動していれば。
無意識のうちに何処かで今回の事件は自分のせいで起こってしまったと思っていた煉獄。
どうしようもないタラレバを考えてしまう位に、後悔という感情が自分を覆っていた。
しかし今、烟霞の言葉で目が覚めた。
(そうだ、俺はまだ...何も失ってはいない!!)
今自分に出来ることはタラレバを考えることでも、刹那に懺悔することでもなく
刹那の事を少しでも知り支える事。
今度こそ刹那を守れるように。
理解する事。
そう気付いたのだ。
「すまない!いってくる!!」
思い立ったら行動。
背中を押された煉獄は、すっくと立ち上がって朱嘉の後を追う。
その姿を見ながら烟霞は薄く笑う。
蛍清や紫苑も同じように。
「逢魔、人間にもあんたのような太陽がいるよ....」
呟いた烟霞の声は、誰に届くことなく消えた。