第8章 slow dance
『力を持つ者が力のない者を守る世界は、間違ってないと思う。でも任務先でさ、むかつく事たくさんあるだろ?クソみたいな非術師だってたくさん見てきた。あんな奴らまで私達呪術師が身を粉にして命懸けで守らなくちゃいけないなんて、ふざけんじゃねーって思うことも正直あるよ。非術師を守るために亡くなる呪術師だって少なくないんだ、誰だって思うさ。呪術師だって、非術師と同じ人間だもん。ただ、力を持って生まれただけの、同じ人間だ。…けど、力を持って生まれた側の人間だから。やるべき事はやるよ。だって、呪術師として生きる道を選んだんだもん』
「……なまえらしいな」
夏油はそう言って、優しく、けれどどこか寂しそうに微笑んだ。
『…でも、もし、私の大切な人達と、非術師を天秤にかけられたら、どちらかしか助けられないなら、私は自分の大切な人達を守る方を選ぶよ。呪術師は聖人でも神様でもないもん。私は不平等に人を助けると思う。ま、こんな事言ったら、両方助けられちゃうくらい強い人間になれって兄に叱られそうだけどね』
「……そうだな。その通りだ」
暗く、静かな廊下で夏油の小さな声が木霊する。そんな夏油に、なまえは続けた。
『…傑、非術師が嫌いになった?』
「……わからないんだ。以前は呪術は非術師のためにあると考えていた。でも最近私の中で、非術師の価値が揺らいでいる。弱者故の尊さ、弱者故の醜さ。その分別と受容ができない。術師というマラソンゲーム。その果ての映像が――……いや、悪い。おかしな事を言った。もう夜も遅い、寝た方がいいな」
そういって困ったように微笑み行こうとする夏油の手を、なまえはぐい、と掴んだ。
『別に、それはそれでいいじゃん。自分が助けたいものを助けて、自分が守りたいものを守ればいいじゃんか。何が正しいのかなんて、いくら探したって答えなんて見つからないよ。自分が信じた道を進めばいいさ。なんだよ、傑らしくない!』
なまえの言葉に、夏油は目を見開く。
「……私らしくない、か」
ぽつり、とそう言う夏油に、なまえは続けた。
『そうだよ。私の知ってる傑はもっとかっこいいぞ』