第8章 slow dance
なまえの言葉に、夏油は一瞬きょとんとしてから、くすくすと微笑んだ。
「…はは、今の言葉、悟が聞いたら火を吹いて怒りそうだな」
『悟にはかっこいいなんて言った事ないからね』
「たまには言ってやれよ。露骨に喜ぶぞ」
『それがウザいんだって。かっこいいって思っても絶対言わない』
「そうか。それじゃあ今のところ私が一歩リードかな」
『はは、何ソレ。そこも張り合うのかよ。相変わらずだなぁ。ていうかお腹空かない?』
「……そうだな。何か食べに行くか?」
『行く!!カレーがいい!!今日はカツとチーズをトッピングしよう。あ、ウインナーも追加で』
「はは、真夜中なのに随分ヘビーだな、太るぞ」
月明かりが微かに照らす暗い廊下を、二人の笑い声が木霊する。
彼とこうして笑い合い、肩を並べて歩くのは――この日が、最後になった。