第1章 もしも運命があるのなら
カツカツと二人の足音だけが廊下に響き渡る。一瞬たりとも気は抜けない。いつ出てくるかわからない呪霊に対処できるようなまえは全身に気を張り巡らせていれば、隣から気の抜けた声がした。
「ねぇ、暇だからなんか面白い話しろよ」
『………は?』
「オマエ頭と目だけじゃなくて耳も悪いの?よし、五条悟の好きなところで山手線ゲーム!!はいはい、全部!!」
パンパン、と手を叩いて一人でにゲームを始める五条をぽかんと見つめながら、なまえは顕著に顔を歪めた。
『マジでなんだコイツ……』
本当にこの男が噂に聞いていた数百年ぶりに生まれたという"六眼"待ちの五条家の坊なのだろうか。
俄かに信じがたい、というか、なんなら信じたくない。
「はぁ~マジつまんないねオマエ。ホント顔だけだな」
『うるせぇなアンタに言われたくねぇよ』
「え何急に褒めんなよ照れるじゃん」
『何も褒めてねぇよ』
入学早々、こんな頭のおかしい奴とペアを組まされるなんて最低最悪だ。一刻も早くこの地獄から抜け出したくて、なまえは早足で病院の廊下を進みながら、そこら中に広がる残穢を追い片っ端から病室の扉を開けていく。
『………』
そして、いくつめかの扉を開けた瞬間。
病室の窓際から、のっそりと歩み出る影があった。人の大きさではない。動物の愛嬌もない。存在として埋めがたい隔たり。外面に滲み出る歪み。魂の底から湧きあがる嫌悪感。
【おどぉぉおおぉぉおおおおざあぁあぁああぁあぁあん】
ヒトを基準とすると、目のある位置に口が四つ。鼻は抉れ、身体中の至る所から飛び出している眼球がこちらを見た。
『……見つけた』
なまえは小さく呟くと、ぎゅ、と唇を噛み締めた。