第8章 slow dance
「ただの夏バテさ。大丈夫」
「ソーメン食いすぎた?」
夏油は大丈夫だと言っていつものようにすましているけれど、どこかその表情は暗い気がした。五条と硝子が実験用ラットの貸し借りの件についてぎゃあぎゃあと騒いでる最中、なまえはその場を去ろうとした夏油の背中を追い駆ける。
『傑!』
「なまえ、どうした?」
『渋谷に出来た蕎麦屋さん、皆で行かない?この前テレビでやっててさぁ、美味しそうだなと思って。最近皆それぞれ任務で忙しくて、あんまりご飯も一緒に食べれてないしさ』
「心配してくれてるのか?私は大丈夫だ、問題ない」
『……傑』
これ以上は踏み込んで欲しくないのだろう。遠回しに交わされて、夏油の背中が遠くなっていく。一年前の星漿体の一件以来、夏油から距離を置かれているように思えた。そしてなんだか、五条の隣に並んでいたはずの大きなその背中は、随分と小さくなってしまったような気がした。