第8章 slow dance
―――1年後
2007年8月。
『いくよー』
なまえの掛け声と共に、なまえと夏油と硝子は、距離を取っている五条に向かってペンと消しゴムを投げた。思い切り投げたはずのペンと消しゴムは、五条の顔前でピタリと止まる。そして、五条はぱしっとペンと消しゴムを手に取って口の端をあげた。
「うん、いけるね」
「げ、何今の?」
「術式対象の自動選択か?」
「そ。正確に言うと術式対象は俺だけど。今までマニュアルでやってたのをオートマにした。呪力の強弱だけじゃなく、質量・速度・形状からも物体の危険度を選別できる。動物なんかも選別できればいいんだけどそれはまだ難しいかな。これなら最小限のリソースで無下限呪術をほぼ出しっぱにできる」
『出しっぱなんて脳が焼き切れるよ』
「自己補完の範疇で反転術式も回し続ける。いつでも新鮮な脳をお届けだ。前からやってた掌印の省略は完璧。”赫”と”蒼”それぞれの複数同時発動もボチボチ。後の課題は領域と長距離の瞬間移動かな」
に、と笑いながら五条は平然と言った。
「高専を起点に障害物のないコースをあらかじめ引いておけば可能だと思うんだ。硝子、実験用のラット貸してよ」
「えー……」
――星漿体の任務から一年が経ち、”五条悟は最強”に成った。
任務も全て一人でこなし、一級、特級の案件も難なしだ。
五条に続き、夏油、なまえも特級呪術師として昇級したけれど、五条との力の差は歴然だった。肩を並べていたはずの背中は、なんだか随分遠く離れてしまった気がした。
「傑、ちょっと痩せた?大丈夫か?」
一年前と比べて、少し頬のこけた夏油に五条が言った。