第7章 不協和音
『これが呪術連からの要請なんだったら、従う以外ないんだよ。高専の上の連中は呪術連とだけは揉めたくないだろうし。ただの定期検診って名目だけど、要は高専でどれだけ成長したか確かめたいんだろ、私の術式が腐ってないか心配なんじゃない』
「定期検診なら俺が毎日してあげるのに」
にやけ顔でそう言う五条に、なまえは露骨に口元を歪める。
『キモい事言ってんな変態』
「隅から隅まで隈なく検診してやるよ」
『うわあ。傑、なんとかしてよこのセクハラ野郎』
「クク、今に始まった事じゃないだろ」
「なんなら加速してるよね~」
楽しそうに笑う夏油の後ろでこれまた楽しそうに言ったのは、いつの間にかその場にいた硝子だった。
『硝子、おはよう!ねぇ、歌姫先輩と連絡とれた?』
「なまえ、おはよ。それな、私も取れてない。今日中に連絡がなかったら、明日うちら二年が派遣されるらしーよ」
『そっか…。無事だといいけど』
「大丈夫でしょ、冥さんも一緒なんだし」
そう言う五条に、なまえは不安げに言った。
『私は明日行けないから、歌姫先輩のことちゃんと助けてね』
「誰に言ってんだよ。つぅかオマエ向こう行っても電話ちゃんと出ろよ。出なかったらマジパンチ」
『うるさいな、わかってるってば。私が悟の電話取らなかったことある!?』
「ある。去年の冬」
ぎゃあぎゃあといつものように言い合いをする二人を見ながら、硝子がぼそりと夏油に言った。
「五条の奴相変わらずだな。可哀想ななまえ。歌姫先輩が戻ってきたらなまえを慰めようの会またやんないと」
「クク…ッ、そう言って硝子はなまえと歌姫先輩と飲みたいだけだろ」
「ハハ、まぁね」
いつもの騒がしい笑い声。
いつもの光景。
当たり前の日常。
―――この時は、未だ。
ずっとこんな日が続くと、そう思って疑わなかったんだ。
青かった私達は、知らなかった。
"当たり前"は、決して永遠では無いことを。