第7章 不協和音
柔らかい風が、桜のにおいを含んで彷徨っていた。
季節は春。
呪術高専二年に進級したなまえは、朝担任の夜蛾から渡された航空券を手に持ちながら廊下を歩いていた。
「――なまえ」
名前を呼ぶ聞き慣れた声に振り返れば、そこには共に進級したクラスメイト二人が立っていて。
『悟、傑。おはよ』
「はよ。何持ってんの?」
五条がめざとくなまえの持つ航空券を見つけると、ひょい、と手に取った。
『あ、ちょっと返してよ!』
「おはよう、なまえ。なんだ、旅行にでも行くのか?」
「は?聞いてねぇんだけど」
夏油の問に、五条が顕著に顔を歪める。違うそうじゃない、と必死に反論しながら、頭一つ分以上背の高い五条から航空券を奪い返そうとなまえは必死にジャンプを繰り返している。
『ほんとに違うんだってば、呪術連の研究所に戻らなくちゃいけなくて』
「は?」
余計に五条の顔が険しくなって、なまえは慌てて付け足した。
『短期だよ、一週間もしないうちに帰ってくるって。帰省みたいなものだから!』
「なんだって急に?」
夏油が不思議そうに問えば、なまえもよくわからないと肩を竦めた。
『それが急に決まったらしくてさ。朝先生に航空券渡されて。明日からだって』
「はぁ?明日?何それふざけてんの?俺の許可も取らずに」
『そう…ってなんで悟の許可が必要なんだよ』
冷静に突っ込んでから、なまえははあ、とため息を吐いた。