第6章 りんどうの唄
境遇は、似たようなモノだ――五条家と。うん百年産まれてこなかった六眼。それ(六眼)とは全く異なるが、この術式を正しく使役する為の特異体質。
散々そう聞かされたが、ガキだった私はいまいち理解に苦しんだ。特別だと言われても、嬉しくなんてなかった。"特別"よりも兄と穏やかに暮らす"普通"が欲しかった。そもそも私は呪術師になりたいのかどうかもわからなかったんだ。だから、ただただ言われたことに従って、兄が迎えにきてくれるのを漠然と待っていた。
それから、七年ほど経った頃だった。一本の電話が入った。兄とはもうずっと会えていないし、声すら聞けてない。ようやく声が聞けるのかと、兄は立派な術師になれただろうか、と。はやる手を押さえながら受話器に手を伸ばす。けれど、通話口から聞こえてきたのは、知らない人の無機質な声だった。
兄が死んだ、と。
自分の等級以上の任務に、一人で飛び込んで行ったらしい。上の術師の到着を待っている間に、誰かが苦しみ助けを待っているかもしれないと言ってね。それを聞いて、如何にも兄らしいと思ったよ。その後駆け付けた術師によると、呪いに充てられていた人間は兄のお陰で助かったが、当の兄の遺体は、それはもう無残なものだったらしい。
それを聞いてから、世界に色がなくなった。白黒の世界で、後悔とたらればに押し潰されそうだった。
ああ。私が強ければ。
迷う事なく呪術師になる道を選んでいれば。
こんな居場所からとっとと抜け出していれば。
自分に力があることはわかっていたのに。
そんな呪いなんて祓えたのに。
そうしていれば。兄も、兄の夢も守れたかもしれないのに。
ただただ兄の迎えを待っていただけの自分を。呪術師になりたいかどうかもわからない、なんて甘ったれたことを思っていた自分を、心底恥じたよ。この身体で産まれた時点で、私の運命なんて決まっていたのに。