第3章 午前0時のシンデレラ
『あーえっと、青◯大学二年生のみょうじなまえです。趣味はお菓子作りと生花です』
硝子に言われた通り一問一句大嘘の自己紹介をしてから、合コンは始まった。10:10の大人数で、店のパーティ会場を貸し切った形で行われていた。相手方の男性達は、IT関連の中小企業の役員と新入社員だそうだ。自己紹介を一通り終えてからは、男性陣から女性陣への質問攻めに遭った。人見知りのなまえにとって、それはあまり居心地のいいものではなく。そっとその場を抜けて少し離れた隅でコーラを啜っていれば、後ろから声を掛けられた。
「大丈夫?酔っ払っちゃった?」
振り返ればそこには、一人の男性が心配そうにこちらを見つめていた。
ウェーブがかった髪は無造作に見えるが、決してラフではなく、きちんとセットされていることがわかる。靴は曇ひとつなく綺麗に磨かれ、細見のスーツも体の線にぴったりと沿っていて仕立てがいい。手首できらりと光る腕時計は、見るからに高級品だ。大人の男性という言葉がぴったりな反面、さぞかし女慣れしているのだろうな、となまえは思った。
『あ、いえ…大丈夫です』
「そう?じゃあ美味しいシャンパンを持ってきたから、よかったら一緒に飲もうよ」
『え、あー…ありがとうございます』
「はは、そんな畏まらないでよ。こういう場所は初めて?」
『あ、はい…』
「そっか。僕もこういう場にはあまり来ないんだ。今日も人数合わせで呼ばれてね」
『…そうなんですか。えっと…』
「廣瀬です。いちいち名前なんて覚えられないよね、こんなにたくさんいるんだもん」
『すみません…私は、』
「なまえちゃん、でしょ?」
『あ、はい…覚えててくれたんですね』
「当たり前じゃない。こんな可愛い子の名前忘れないよ」
『えっそんな…全然、とんでもないです』
「謙虚なところも素敵だね。こんなに可愛い子初めて見たよ。お人形さんみたい。モデルとかやればいいのに」
褒め言葉のラッシュに、なまえはどうしていいのかわからず固まってしまった。いつもいつもあのバカ(五条)に貶されているものだから、褒め言葉にどんな対応をすればいいのかわからない。