第3章 午前0時のシンデレラ
「傑ー、あのバカ知らね?」
風呂上りの濡れた髪を揺らしながら、肩にタオルをかけた五条が夏油に言った。
「なまえなら今夜はいないよ」
「は?なんで?」
「さっき偶々硝子と会ったんだ。なまえと一緒に出かけると言っていた」
「どこ行ったの?」
「聞いても教えてくれなかった。女子会だから邪魔するな、とだけ」
「…ふーん」
夏油の話を聞きながら、五条は電話をかけ始める。プルル、と無機質な発信音が何度か鳴った後、電話の向こうから聞き慣れた声と賑やかな雑音が聞こえてきた。
《なんだよ》
ふてぶてしいなまえの声に、五条は続けた。
「電話出んのおせーよ」
《はぁ?出たんだから良くない?》
「で、オマエ今どこで何してんの?」
《え?えーっと《あー五条?今女子会中で忙しいからまた後で掛け直すわ!んじゃね》
電話に割り込んできた硝子にブチッと電話を切られて、五条はチッと舌打ちをしてから何やらぽちぽちと携帯をいじり始めた。
「悟、何してるんだ?」
「決まってんじゃん、今から行くんだよ」
「は?だって女子会中なんだろ?」
「つってたけどぜってー嘘、男の声したし」
「…だからって乱入はまずくないか?そもそも場所もわからないのに」
夏油の言葉は、五条には届いていないようだ。携帯をぽちぽちと弄りながら、彼はふむふむと納得するように呟いた。
「ふーん、新橋ね。セレクトする店が二流、中小企業のせいぜい課長クラスってとこだな」
ぶつぶつと画面を見ながら呟く五条に、夏油は思う。何故場所がわかったのだろうか。あまり考えたくはないけれど、一応確認として聞いてみる。
「悟、どうしてなまえの居場所がわかったんだ?」
「ん?GPSの位置情報から店情報探った」
「……GPS…」
機械音痴のなまえのことだ、おそらく五条が彼女の携帯を弄くり勝手にGPS機能をつけたのだろう。本来なら防犯目的などで親が小さな子供につける用のものである。
「悟……」
さすがにそれはマズくないか、と言いかけた夏油の言葉を遮るように、五条は言った。
「桃鉄全シリーズクリアするまでアイツに自由はねぇよ」
悪魔のような笑みで微笑む五条に、夏油はぞっとしてから心底なまえに同情したのだった。