第2章 魔法にかけられて
見渡せば辺りは、まさに映画や絵本の中の世界みたいで。なまえにとって書籍や画面の中でしか見たことのなかった世界観がそのまま表現されていて、壮観だった。夜蛾先生の言っていた”若人にとってこれ以上の褒美はない”という言葉も、今なら納得できる気がする。なんて思ってうきうきと足を進めていれば、後ろから思い切り腕を引っ張られた。
「オイ」
腕を引っ張っているのは、勿論五条である。不機嫌な顔とふざけたカチューシャがなんともミスマッチで少し笑える。
『え、なんで不機嫌なの?』
「勝手に離れんなよ。オマエチビすぎて見つけんの大変なんだからさぁ」
『チビで悪かったな。ていうか平均身長だし。アンタが無駄にでかいだけだろ』
いつものように言い合いをしながらも、二人は割とノリノリでパーク内を満喫した。あちらこちらの売店でチュロスなりアイスクリームなりを買って食べ、無駄に長い待ち時間を経てアトラクションに乗って。けれど、無駄に長い待ち時間も、何時も通りのくだらない言い合いをしていればあっという間だった。
「次どこ行く?」
『あ、お土産屋さん見たいかも』
「土産?荷物になるから後にしろよ」
『硝子が、お土産屋さんは早めに行けよって言ってたんだよ。遅い時間は混むんだって』
「アイツやけに詳しいな」
なまえは、硝子と夏油と夜蛾先生にもお土産を買って帰ろうと決めていた。道中に丁度土産屋があったので、ぶーぶー文句を言う五条を引き連れて中に入る。
自分達がつけているバカげた耳を買って帰るのもアリかななんて思ったけれど、死ぬほど嫌な顔をされそうだから辞めた。無難にお菓子にしようと菓子棚を見つめていれば、後ろからひょいと顔をだした五条が言った。
「土産なんか誰に買うんだよ」
『硝子と、夏油と、先生』
「ふーん。全員まとめてコレでよくね?」
『えー、せっかくだからまとめてじゃなくて一人一個ずつ買っていきたい』
「あっそ。つぅかオマエ俺以外にはなんか優しくない?」
むっとした顔でそういう五条に、なまえは首を傾げた。