第2章 魔法にかけられて
――当日。
なまえは何故か、五条と共に朝イチでTDLの"開園"を待っていた。
部屋の窓ガラスをどんどんと叩く音で、朝の六時に起こされた。言わずもがな、犯人は五条である。
せっかく行くなら楽しまなきゃ損でしょ、なんていっていた隣のアホ五条は、らしくもなく浮かれているように見えた。実はディズニーランドに行ってみたかったのだろうか、なんて内心思いながらなまえは、ノリノリの五条の後についてようやく園内に足を踏み入れた。
休日なだけあって、想像以上に人が多い。
けれど、あれだけ嫌だ嫌だと言っておきながらも目の前に広がる豪奢なシンデレラ城や現実離れした華やかな景色に柄にもなくワクワクと心を踊らせていれば、いつのまにか隣にいた筈の五条がいなくなっている事に気付いた。
『え、嘘!?』
キョロキョロと辺りを見渡しても、彼の姿は見当たらない。あの長身に目立つ白髪ならすぐに視界に入りそうなものなのに、一体どこへ行ったのだろう。浮かれて風船と一緒に飛んで行っていたらいいなぁ、なんて空に浮かんでいる風船を見ながら思う。まぁ、このまま一人で過ごすのもアリかななんて考え始めていれば、後ろからぐい、と腕を引かれた。
振り返ってみればそこには、随分愉快なカチューシャをつけた五条の姿があった。
『え……何してんのアンタ』
「せっかく来たんだから楽しまなきゃ損でしょ」
そういって五条は、これまた愉快なリボンがついた色違いのカチューシャをなまえの頭につけた。
『ちょ、何すんのやめてよ恥ずかしい!!』
「いいじゃん俺もつけてんだから」
『アンタと一緒にしないでよ!!余計嫌だわ!!』
カチューシャを取ろうと頭に手を当てれば、全力で五条に払われた。
「外すの禁止ーここは夢の国でーす」
『ていうか何、これ買ってきたの!?』
「そうだけど。ていうかさっき言ったじゃん。オマエもつける?って聞いたらうんって言ってたじゃん」
そういえば隣でなにやらぶつぶつ言っていたような気がする。シンデレラ城に夢中で、五条の話なんて一ミリも聞いていなかった。少しだけ反省して俯けば、つんつんと肩をつつかれる。何事かと見上げれば、五条は携帯電話の内側カメラを自分となまえに向けていた。