第17章 残響のマリオネット
「一度ね、オマエに預けてみたい子がいるんだ」
「伏黒君ではないでしょう?伏黒君にはなまえさんがいますし」
「ーー虎杖悠仁。知ってるだろ」
その名前に、七海は眉を顰めた。
「………亡くなった、と聞いていましたが」
「呪いの王を宿しているんだ。“死者を蘇らせる人形“なんてインチキとは、ワケが違うんだよ」
バーテンダーがそっと、カウンターにグラスを三つ置く。
沈む夕日のような、黄金色の液体。
そのネーミングを考えれば、満月の色なのかもしれない。あるいはその名を口に出された、少年の髪の色に見えるかもしれない。
最後には正しき結末を迎える、ロマンチシズム溢れるお伽話のように、そのカクテルは甘い。
自分のグラスをつまんで揺らしながら、五条は続ける。
「僕も多忙だし、オマエと邪魔抜きで話せる機会は何気に貴重なんだ」
「アナタとなまえさんが今の呪術界を嫌っているのは分かりますが、私はこれでも規定側の人間です。宿儺の器に対して、アナタがどのような思惑を持っているのかは知りませんが……」
「宿儺の器じゃない。あくまで、虎杖悠仁という一個人についての話だよ、これは」
「それを切り離して話すことが許されるほど、彼は気楽な身の上ではないはずですが」
「悠仁はさ、真っすぐな子なんだよね」
五条の指先が、グラスの縁を撫でる。
弦楽器の高音のような響きが、微かに鳴る。
「覚悟も度胸もある。戦いに必要な思い切りも。それでも、真っすぐすぎるところはある。そういう子は、一度でも心折れた時が心配なんだ」
「それを私にどうしろと?」
「言ったろ?僕もなまえも多忙でね。精神的な成長のケアまで手が回るとは言えない。一度、オマエに預ける機会があると助かるよ」
「私がその頼みを聞くとでも?」
「だから頼んでるんだよ。呪術師にしろ、宿儺の器にしろ……一人の若人の、健やかな成長を願う大人として」
軽薄で、適当で、冗談ともつかない言葉を並べ立てるのが五条悟の常だ。だからこそ、真面目な言葉は聞けば分かる。