第17章 残響のマリオネット
「呪いを産むのが人である以上、僕が受け持つ生徒たちも、いつかはクソみたいな人間の悪意と向き合う時が来る」
「……呪術師ですからね」
世界は理不尽に満ちている。
人の悪意、生じる呪い。呪術師に限らず、人はそういった苦みを噛みしめ、諦めを知り、絶望を積み重ねて大人になる。
七海はそれを知っている。
五条もまた、七海がそうやって出来た大人であることを知っている。
だから、彼は七海に語り続ける。
「僕らみたいなのは、そうやって心に回った毒を吐き出す手段を知っている。でも、多感な時期の若人は別だ。一度の毒が心を壊すこともある」
「子供に残った毒を処理してやるのは、大人の役目でしょう。教職であるアナタの方が向いているのでは?」
「わかってるよ。だからオマエと話をしにきたんだ」
「夫婦水入ずでの時間をわざわざ割いてでも、ですか」
「そういうこと。ま、逆にオマエの出張がなければ僕らが一緒にここに来れることも難しかったしね。ナイスなタイミングが重なったのさ」
グラスの中身を飲み干して、五条はバーテンダーに注文をつける。
「"シンデレラ"を三人分ね」
「冗談でしょう」
『私も飲むの?』
黙って二人の話を聞いていたなまえが、きょとんと口を開く。バーにきてノンアルコールカクテルを飲むなんて、という顔で。
五条の注文した“シンデレラ“ーーはもちろんノンアルコール。ミックスジュースの類だ。文句を言いたげな七海となまえを無視して、五条は視線をバックバーの棚に向けながら、話を続ける。