第17章 残響のマリオネット
断末魔の声も上がらない。
情報の開示によって増幅した術式は、人形師の身体を7:3、正確に切断した。袈裟懸けに切り落とされた身体は、綺麗に人形の部分と生身の部分に分断され、床へと崩れ落ちる。
おそらくは人形師の魂を養分に動いていたのだろう、切り離された人形の身体は、ガチャガチャと無機質な音を立てていたが、やがて動かなくなった。
そして。
「……ァ……あ……ア、あァ……」
言葉にもならない声で、か細く呟いて、人形師は糸の切れた人形のように動かなくなった。
皮肉にも、死の間際の一瞬とは言え、人形から切り離された生身の身体は、“人間として“死ぬことができたと言えるだろう。
その真実が、決して誰かの胸を晴らすものでなかったとしてもーーななみの一刀が彼を人間に戻したことだけは、事実である。
「お疲れ、七海」
『お疲れ』
五条となまえに両端から肩を叩かれ、七海は凝りをほぐすように腕を回した。
「アナタ達がやってくれた方が楽だったのですけどね」
「こんなヤツでも一応、人間として葬るんだったらオマエの術式の方が向いてるよ」
「向きたくありませんね、こんな仕事」
『…それでも。幾分かこいつはーー正しく死ねたんじゃないか。七海のおかげでさ』
「………」
なまえの言葉に、七海は小さく息を吐きながら、死体を見つめた。
「とりあえず帳だけ下ろして、処理は任せよう。さすがに死体の処理は手に余る」
「今回何もしてないでしょうが、アナタ」
七海の長いため息を最後に、室内には静寂が戻っていく。
―――その部屋の主が、人形だったのか、人間だったのか。
呪術師達が訪れた時点では、曖昧な話。
ただ、床に広がった血の痕は、人間の証明であるかのように鮮やかで。
やがてその痕跡も、まるで何事もなかったかのように、跡形もなく拭われて。
最後に静寂だけが、地下の奥に残った。