第17章 残響のマリオネット
「ーーー七海」
「ええ。戯れに人々を呪っていたかと思いきやーー呪われている側だったようで」
その掛け合いが合図だったかのように、異変は始まった。
人形師の衣服を縛っていた、無数の札を引き裂いてーー幾つもの“腕“が服の下から鞭の如く飛び出した。
「チッ」
七海は最低限の動きで避けようとしたが、瞬時に判断を切り替えた。振るわれた腕の先から、小さな虫のようなものが何体か飛んできたからだ。腕の直撃を避けながら、七海は着ていたスーツの上着を乱暴に脱ぎ、その虫らしきものを払い落とす。
「これは……」
人形師の体は、まさに肉人形と化していた。
人と人形が、歪に癒着して崩れた輪郭を形作る。首と左腕は辛うじて生身を保っているが、左腕から下は痛ましいことこの上ない。
心臓に噛みつく、憎悪に歪んだような人形の頭。
「あ、あぁあぁあああ、たすけ、たすけてっ、金が、金、金ならあるからっ、祓っ、祓ってくれぇ!こいつが、こいつがこいつがこいつがこいつこいつ、離れはなはなれレレレレ」
痛みと恐怖に暴れる人形師は、無数の腕を鞭のように振り回す。
その威力自体も、さながら嵐の如く、生身で受ければ骨を粉々にへし折るだけのものはあったが、真の脅威はそれではない。
最も悍ましいのは、人形の腹から湧き、わらわらと机の上を蠢く、無数の小さな虫。否、よく見ればわかる、それは小さな呪骸の群れだ。
それらは人形師の体と、服の下に隠されていた“赤子の死体“を食みながら、ゆるやかに増殖と成長を続けていた。