第17章 残響のマリオネット
「呪いを祓うよりキツいよね、人の未練を祓うのは」
五条がそう呟くほどの、涙と嗚咽を伴って、呪骸はようやく回収された。地下からでは分からないが、外は随分と日が傾いただろう。力ずくの遂行では心の傷は癒えなくなる。
あの母親が自ら手放すまで、七海たちには待つ必要があった。なまえの言葉でようやくその母親の手から渡された呪骸を、なまえは丁寧に七海の鞄にそっと入れた。その光景が、七海の瞳にはやけに痛々しく映って、そっとなまえの手を止めるように自身の手を重ね、鞄のジップを代わりに閉めた。
「五条さん。アナタ何もしてないんですから荷物持ちくらいしてください」
「え、僕?なんで?それ七海の鞄でしょ」
「なんでも何も。アナタ何もしてないでしょう」
それから3回ほど渋ったが、結局五条は七海の鞄を持たされた。
「……七海、手提げ鞄に入れるにはちょっと重いよこれ」
「適当に捨てていくわけにも、アナタたちの持っているキャリーケースに入れるわけにもいかないでしょう。どうせくだらないものでごちゃごちゃと埋め尽くされているんでしょうし」
「オイオイ、なまえのパンツが入ってんのにそれでもくだらないって言えんのかオマエ七海ィ?」
『大人しく荷物持ちしとけよ、何もしてないんだから』
「なまえまでヒドい」
ぶうぶうと文句を垂れる五条に、七海が呆れながら続ける。
「それに、大事な手がかりですから。その人形に籠められた呪力と見比べれば、微かな残穢だけでも大本を辿れますし」
「まあね。“人形師‘も一応、痕跡を隠すつもりくらいはあったようだけど……やっぱりモグリだろうよ、こいつ。雑にも程がある」
鞄を持つ五条の手に、微かに力が籠る。
「……ええ、全く」
『…本当、ふざけたことをしでかしてくれたもんだよ』
一度失って尚、もう一度失う―――それがどれだけ辛いことか、三人には痛いほどわかっていた。
しんみりとした空気を纏いつつ、3人はそのまま、地下街の奥へと歩みを進めたのだった。