第17章 残響のマリオネット
「ーーー呪骸?」
七海の言葉を反芻するように、その母親は単語を繰り返した。
馴染みのない言葉だからか、イントネーションが少しぎこちない。
「ええ、簡単に言えば…そうですね、呪いの人形とでも言えばわかりやすいでしょうか」
七海の説明は、呪術に対する知識のない人間への配慮が感じられた。社会人を経験していると、こういうところがしっかりしている、と五条はこっそり評価する。
「人形、って……だって、この子、こんなに」
「舌を巻くほど良くできていますよ。普通の人間が見れば、本物の赤子と区別がつかないでしょう」
「この子は、本物の……」
「そうじゃないことは、取引したアナタが一番よく分かっているのでは?」
「………」
「普通、呪骸をそこまで人間らしく作成できる呪術師はそういない。……これは憶測ですが、アナタはそれを作ってもらうために、金銭以外に何かを要求されたのでは?」
「うっ……」
腕の中の赤子は、実によく出来ていた。とは言え、あくまで見せかけの話。呪術師の目で見れば、悍ましさだけがそこにある。当然の話だ。何故ならーー。
「おそらくはーー」
「蘇らせたい赤子の死骸を要求されたんだろ」
『ーー悟、』
あまりにストレートな五条の発言に、七海となまえは顔を歪めた。
「赤子に限定するわけだよ。成人の死体は持ち運べないからね」
なんとか言葉を濁しながら聞き出そうとしていた七海だったが、ズバリ言い放つ五条に肩を落とす。
母親の動揺を見るに、どうやら五条の指摘は図星だったらしい。
死体を素材とし、生前のように動く呪骸。呪術というものに理解があれば、それがいかに歪で、呪術を冒涜し、人を堕落させるものか分かるだろう。
しかし、それでも一般人に「死者が蘇った」という甘ったるい悪夢を見せるには十分だ。その悪夢から覚ますには、五条の放つ冷水のような真実が必要なのも、また確かである。
「見た目は生きてるようだけど、その実、プログラム通りに動くペットロボットと変わらないんだよね。それ」
「嘘!だって、私ちゃんと聞いたもの!……夏輝が帰ってくるって聞いて、お金を払ったんだもの」
「親ならば分かるのではないですか。自分の子の細かな癖、感情をのせた表情…そういう、生きた魂の気配が、その赤子にはないことくらい」