第17章 残響のマリオネット
「ーーもう、秋人。どうして分かってくれないの?」
「やだ!お母さん、そんなの持って行かないで!やだ、やだぁ!」
「お兄ちゃんなんだから、変な我儘言わないで。ほら……また夏輝が泣いちゃうじゃないの」
「やだぁ!やだぁ!お兄ちゃんなんかじゃない!」
夏輝、と呼ばれた赤子を抱き直して、母親は困った顔を浮かべていた。
もちろん、秋人と呼ばれた子のことも大事なのだろう。しかし、親とは幼子に敵わないものだ。どうしてもその赤子を気にせざるを得ないようで、小さな身体を抱いて揺れる表情には、狂おしいほどの愛情が篭っている。
一般人が見れば、なんの変哲もない、微笑ましい光景だろう。
下の子が産まれ、急に母親を取られたようなきになって癇癪を起こす幼子。だが、秋人という少年の様子は、子供の癇癪と言うには、あまりに必死だった。親を取られまいとする気持ちに間違いはないだろう。しかしその敵意は、実の弟に向けるものとしては、刺々しすぎる。
母親もそれを分かっているのだろう、最初は苦笑で済んでいた表情が、徐々に困惑、そして憔悴、怒りへと変わっていく。
「どうしてそんなこと言うの!」
「だって、だって!」
「貴方の弟なのよ?かわいそうだと思わないの?」
「そんなの弟なんかじゃない!」
「っ、秋人!」
激昂した母親が、感情に任せて平手を上げる。しかしながら、その手が幼子の頬で痛ましい音を鳴らすことはなかった。七海が、その腕を掴んでいたからだ。