第17章 残響のマリオネット
―――怨嗟、嫉妬、憤怒、偏愛、執着、羨望、嫌悪、我欲。
負の感情は本来、街の性質によって分散するが、この街は性質を区別していない。そこへきて、地下歩行空間だ。長大な通路にして、広大な地下街。街の主要施設のほとんどへ通じる筒は、駅へ乗り入れる多種多様な人間を、その抱いた負の感情ごと一つの空間へ絞って運んでいく。
一見、華やかかつ賑やかなその地下の動脈は、こと呪術師の目からしてみれば、まさしく人の念の坩堝である。
『まあ、おかげで臭う方向はわかりやすいけどね』
「ええ。見るからに嫌な気配を感じますから」
大勢の人間が行き交う地下街は、ただでさえ空気の淀みが強い。だが、その中でも特筆すべき陰気な気配が、確かにある。
術式の残穢だけで呪霊の足跡を追える程度の呪術師なら、ガス漏れの元を辿るよりも楽だと言える。
行き交う人混みを縫いながら、七海と五条となまえはその気配を辿って、地下を南に向かって歩いて行く。十数分ほど歩くと、整備された区画が終わり、やや趣の違った旧区画へと踏み込んでいくことになる。
だからと言って人口密度が減るわけではなく、結果として一層ごみごみした趣になっている。そんな行き交う人々の中。まるで溢れんばかりの河川のような人の流れの中にーー“淀み“はあった。
「七海、なまえ」
「ええ。ーーー手がかりでしょうね」
3人の呪術師の視線の先には、親子連れがいた。
赤子を抱いた母親と、5、6歳程度の少年。3人はその親子連れの会話に聞き耳を立てながら、用心深く近づいて行く。